第3話「新しい扉」

スマホ 恋愛・婚活小説

「マッチングアプリ、久しぶりだなあ」
暗い部屋の中、スマホの画面がミキの顔を照らす。ひとり、その光を見つめながら呟いた。

あきひろと出会ったのは、少しマイナーなアプリ。
今度は有名どころでやってみようと、インストールボタンを押す。

登録を進める指先が、ほんの少しだけ震えていることに気づく。
──新しい出会いのはずなのに、どこか罪悪感を覚えた。
あきひろとは音信不通になっただけで、きちんと別れ話をしたわけじゃない。
まだ彼の番号もLINEも消せないまま、こうして新しい扉を開こうとしている。
でも、立ち止まっている自分が嫌で、無理やりでも前に進もうとした。

写真は、少しだけ盛れているものと、普段の雰囲気がわかるものを選んだ。
会ったときにガッカリされたくなかったからだ。
自己紹介文は何度も書き直し、仕事や趣味、休日の過ごし方を簡潔に入れた。

登録を終え、ベッドに横になる。
あきひろのことがあって、最近はずっと寝不足だった。
今日は、少しは眠れそうな気がする──。


翌朝、目覚めてスマホを開くと、通知の多さに驚いた。
「え、何かあったの?」
画面を開くと、マッチングアプリからの通知だった。

──いいね、ってこんなに来るんだ……。

あきひろのことは、まだ心の整理がついていない。
それでも、たくさんの人から興味を持ってもらえた事実は、正直うれしかった。
「あとでゆっくり見よう」
そう思いながら、身支度を整えて家を出た。

職場へ向かう電車の中、アプリを開いていいねをくれた人たちを確認する。
年齢は20代から50代まで様々。
中でも、同年代からのいいねが多くて安心した。
「30代女性って人気ないのかも」なんて思っていたけれど──
もしかすると、あきひろと出会った頃より、今のほうが多くの人に見てもらえているのかもしれない。

その小さな驚きが、意外にも胸を温めた。

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