第6話「初めての映画デートと心の違和感」

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「あれって、ケンゴさんだよね……?」
待ち合わせ場所に立つ男性を見て、私は不安を覚えた。

顔は確かにプロフィール写真の名残がある。けれど全体的に丸みを帯びていて、思わず胸の奥がざわついた。
さっきの「顔が丸くなってるかも(笑)」というメッセージって……そういう意味だったの?

ショックを受けつつも、声を掛けないわけにはいかない。
「ケンゴさん……ですよね?お待たせしてすみません」
笑顔を作ったつもりだったけれど、きちんと出来ていたかは分からない。

「こちらこそ早く着いちゃってすみません」
にこやかに返すその様子からは、人柄の良さも伝わってきた。
「早速ご飯に行きましょうか」
そうして二人で歩き出した。


目的のイタリアンレストランに着くと、数組が店の前に並んでいた。
「結構混んでますね。並びますか?それとも他に?」と聞かれ、少し悩む。
「ここで待ちましょうか」
三組程度なら映画にも間に合うはず、と判断した。

並びながらの会話は、仕事のことや休日の過ごし方など無難な内容。
ただ、途中で「薬剤師なら毒薬とか作れるんですか?」とよく分からない質問をされ、曖昧に笑ってごまかす。

順番が来て席につき、それぞれパスタを注文した。
料理は美味しいはずなのに、待ち合わせで感じた落胆を引きずっていて、味の印象はほとんど残っていない。


食事を終えるとすぐ映画館へ向かった。
「映画の最中は話さなくていい」
そのことに少しホッとしている自分がいた。

映画は話題作らしくとても面白く、館内には笑い声も響いていた。
隣からケンゴさんの笑い声が聞こえるたびに、私はなぜか冷静になってしまった。
——楽しいはずなのに、心がついていかない。
どこかで「あきひろだったら」と思っている自分に気づいてしまう。


上映後、駅までの道を感想を話しながら歩いた。
「また会いましょう」
そう言われて、私は少しだけ迷った。

「またアプリでメッセージ送りますね」
そう答えて笑ったけれど、胸の奥にあったのは小さなため息だった。

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